親族内承継のおススメ設計:揉めない「株式・役職・お金・家族」の分け方

事業承継で一番多い失敗は「後継者を決めたのに、家族が割れる」ことです。結論はシンプルで、揉めない親族内承継は“株式・役職・お金・家族”を切り分けて設計します。感情でまとめに行くほど、最後に数字と権限で衝突します。会社を守りながら家族関係も壊さない「おススメの分け方」を具体策で示します。
企業のよくある悩み:揉めるのは「順番」を間違えるから
親族内承継の現場で多い悩みは、だいたい次の構造です。
長男に継がせたいが、他の兄弟は「自分の取り分は?」と不安になる。後継者は社長になりたいが、古参幹部が反発する。株を渡したいが、相続税が怖くて先送りする。つまり、家族の感情・会社の権限・お金の分配が一つに混ざっているのです。混ざったまま進めると、最終局面で「株式=支配権」「役職=権限」「お金=生活」が同時に爆発します。
使えるノウハウ:揉めないための「4つの分離設計」
ここからが実務です。揉めない会社は、最初に“分離”します。
まず株式。株は「財産」ではなく、会社の意思決定権です。親族内承継では、経営を担う人に議決権を集めるのが鉄則です。一方で、他の兄弟姉妹の納得は「配当や資産の分け方」で作ります。ここを曖昧にすると、将来「株を売れ」「経営に口を出す」が始まります。
次に役職。よくある誤解は「株を渡せば社長になれる」です。実際は逆で、先に“社長の仕事”を任せ、成果で承認を取る方がスムーズです。1年目は営業・採用・資金繰りなど“社長の3大責任”を引き継ぎ、数字で信頼を積みます。
三つ目はお金。承継設計で見落とされがちなのが、先代の生活費です。先代の不安があると権限移譲が止まります。役員退職金・顧問料・不動産賃料などで「引退後のキャッシュフロー」を先に固定すると、スパッと渡せます。
最後に家族。家族会議は「仲良く話す場」ではなく、利害を可視化して合意形成する場です。議題は4つに固定します。「後継者」「株式の配分」「公平(平等ではない)の説明」「期限」。この順番で合意を取り、議事メモを残す。口約束は、後で必ず争点になります。
最終的に伝えたい主張:親族内承継は“設計”で9割決まる
結論は、親族内承継を成功させる会社は、例外なく「株式=支配」「役職=責任」「お金=安心」「家族=合意」を分けています。情に流されず、構造で整理するからこそ、家族も会社も守れます。承継はイベントではなく、設計プロジェクトです。
経営者に期待する行動:今日からやるべき3つ
まずは、現状の棚卸しです。
①株主構成(誰が何%か)
②経営の実権(誰が決めているか)
③先代の生活費(引退後いくら必要か)を紙に出してください。
次に、後継者の「社長業」を分解し、3つだけ任せます。おすすめは「資金繰り管理」「主要顧客対応」「採用・評価」です。成果が出れば、社内は自然に動きます。
最後に、家族会議の日程を決めます。期限がない承継は、永遠に終わりません。“いつまでに誰が何を決めるか”を決めた瞬間から、揉める確率は下がります。
まとめ
- 親族内承継が揉める原因は、株式・役職・お金・家族が混ざっていること
- 解決策は、支配(株式)/責任(役職)/安心(お金)/合意(家族)を分離して設計すること
- 経営者が今すぐやるべきは、株主構成・実権・引退後資金の棚卸しと、期限付きの家族会議の設定
以下、揉めない配分パターン(3案)を具体化します。
1枚サマリー(現状とゴール)
現状
- 株主:父 100%
- 後継者:長女
- 引退後必要額:毎月100万円(父の生活費)
承継の目的(成果)
- 経営の意思決定がブレない(長女に決定権を集中)
- 父の生活の安心を固定(毎月100万円を制度化)
- 家族の納得は「株」ではなくお金・資産・説明で作る(株=支配権)
揉めない配分パターン(3案)
案1:王道シンプル型「株式は長女へ集中+父の生活費は会社から固定」
配分
- 株式(議決権):長女へ段階的に集約(最終的に長女が過半〜100%)
- 父の毎月100万円:顧問料・役員報酬(退任前)・退職後の顧問契約で固定
- 他の相続人がいる場合:株は渡さず、現金・不動産・生命保険などで調整
揉めないポイント
- 「株=支配権」を一本化して、経営の迷走を防ぐ
- 父の不安(生活費)を潰すことで、権限移譲が進む
- “公平”は株の分割でなく、相続財産の配分で作る
注意点(実務)
- 会社のキャッシュフローが毎月100万を無理なく出せるか(固定費化)
- 退職金を使うなら、金額・支払方法・税務を必ず設計
案2:バランス型「種類株で“決定権”と“お金”を分離」
配分
- 長女:議決権株(普通株)を集中=経営の決定権を持つ
- 父(または他の相続人):無議決権の配当優先株を持たせる
→ 父の毎月100万円は、優先配当+必要に応じて顧問料で確保 - 一定期間後(例:5年・10年)に会社が優先株を買い取り(償還)できる設計にする
揉めないポイント
- 「株を渡す=経営に口が出せる」を防ぎつつ、
“お金の取り分”だけは設計で担保できる - 兄弟姉妹がいても「配当はあるが議決権はない」で線引きが明確
注意点
- 種類株は設計の質で天国と地獄。定款変更・評価・税務が絡むため専門家必須
- 配当原資が出ない業績だと破綻するため、配当政策のKPIが必要
案3:ガバナンス最優先型「信託・持株会社で“支配”をロックし、生活費も自動化」
配分(例)
- 父の株式を信託に入れる/または持株会社へ集約
- 長女:議決権(議決権行使者)を確保して経営を動かす
- 父:優先受益(毎月100万円の受益権)を持ち、生活費を自動化
- 他相続人がいる場合:残余受益(将来の配当・売却益)で納得を作る(口出し権は持たせない)
揉めないポイント
- 事故が起きても「株がバラけて経営が止まる」を回避
- “家族の感情”が荒れても、会社の支配構造が崩れない
注意点
- 設計コストは上がるが、揉めた時の損失(経営停滞・訴訟・人材離反)を考えると合理的なケースが多い
考察
- 最短でまとまりやすい:案1(シンプル型)
- 兄弟姉妹の納得を“株以外”で作りたいなら:案2(種類株)
- 争いリスクが高い/資産規模が大きい/不動産や株の分散が怖いなら:案3(信託・HD)
経営者(父)に期待する「次にやること」
今日から意思決定してください。迷うと必ず揉めます。
①毎月100万円の原資を確定する
- 会社負担(顧問料/役員報酬/退職金分割)か、個人資産(賃料/運用/保険)か
- 「何で払うか」を1つに決める
②“いつまでに社長交代するか”期限を入れる
- 例:12か月以内に社長交代、24か月以内に株式過半移転、など
③家族会議の議題を固定して合意を取る
- 議題は4つだけ:後継者(長女)/株式の扱い/父の毎月100万/公平の説明
- 口約束禁止。議事メモを残す

